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グローバル分散投資の落とし穴|相関係数が高まる危機時のリスク

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グローバル分散投資の落とし穴|相関係数が高まる危機時のリスク

この記事の結論

グローバル分散投資は平常時には有効ですが、金融危機時には機能しません。

リーマンショックでは世界株式時価総額がピーク比で約60%減少し、通常は異なる動きをする各市場が同時暴落しました。原因は「相関係数の急上昇」です。平常時0.79だった外国株と国内株の相関が、危機時には1に近づきます。

金は短期的に下落したものの、3年後には2倍以上に高騰し、真の分散効果を示しました。対策は、資産クラスを超えた分散、現金10-30%の確保、金5-15%の組み入れ、そして定期的なリバランスです。


リーマンショックが露呈させた「分散の幻想」

「卵を一つのカゴに盛るな」という投資の格言を信じ、多くの投資家が日本株だけでなく米国株、欧州株、新興国株へと資産を分散していました。しかし2008年9月15日、米投資銀行リーマン・ブラザーズの破綻をきっかけに、この戦略は崩壊しました。

日経平均は2008年10月に発生直後比で41%暴落し、7,000円台まで急落しました。米国市場も例外ではなく、世界の株式時価総額はピーク比で約60%減少(2007年末比では約48%減)しました。欧州も新興国も同様に暴落し、地理的分散は全く機能しなかったのです。

この経験が投資家に突きつけた事実は明確です。グローバル分散投資は、最も必要とされる危機の瞬間に効果を失います。なぜこのような事態が発生したのでしょうか。答えは「相関係数」にあります。


相関係数が「1」に近づく恐怖のメカニズム

相関係数とは、2つの資産の値動きの連動性を示す指標です。-1から+1の範囲で表され、+1に近いほど同じ方向に動き、-1に近いほど逆方向に動きます。現代ポートフォリオ理論では、相関係数の低い資産を組み合わせることでリスクを低減できるとされています。

年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)運用実績報告書(2018年度末)によると、平常時の主要資産の相関係数は以下の通りです。

  • 外国株式と国内株式:0.79(強い正の相関)
  • 国内株式と国内債券:-0.16(弱い負の相関)
  • 日本株式と金:0.1~0.3程度(測定期間により変動、ほぼ無相関)

平常時のデータを見る限り、株式と債券は逆の動きをしており、理論通り分散効果が得られるように見えます。しかし問題は、この相関係数が市場環境によって劇的に変化する点にあります。

市場には古くから「恐怖の時期には、あらゆる相関係数は1になる」という格言があります。

この現象は学術的にも実証されており、金融研究者Longin & Solnikの論文(2001)では、極端な市場下落時に国際株式市場間の相関が著しく上昇することが示されています。

リーマンショック時、投資家は「現金を確保しなければ」という恐怖に駆られ、あらゆる資産を一斉に売却しました。米国株を売った投資家は、同時に欧州株も日本株も新興国株も売りました。その結果、平常時には異なる動きをしていた資産が、危機時にはほぼ完全に同方向へ動いたのです。

この現象は、グローバル化した金融市場の構造に起因します。世界中の市場が密接につながり、情報技術の発達で悪いニュースは瞬時に世界中へ伝わります。ある国の金融機関の破綻は、取引相手である他国の金融機関にも波及します。この連鎖反応が、相関係数を急上昇させる正体です。


現代ポートフォリオ理論の想定外

現代ポートフォリオ理論(MPT)は、1952年にハリー・マーコウィッツ氏が提唱し、1990年にノーベル経済学賞を受賞した画期的な理論です。その核心は「相関性のない資産を組み合わせれば、期待リターンを保ちながらリスクを最大限減らせる」というものです。

しかしこの理論には重要な前提条件があります。投資家が合理的であること、市場が完全市場であること、そして資産間の相関係数が安定していることです。リーマンショックは、最後の前提が現実では常に成立しないことを証明しました。

投資理論では、リスクを2つに分類します。「個別リスク」は個々の企業に固有のリスクで、分散投資で軽減できます。一方「システミックリスク」は市場全体に影響を与えるリスクで、どれだけ分散してもほぼ回避できません。金融危機はまさにこのシステミックリスクに該当します。

世界一の投資家ウォーレン・バフェット氏は「分散投資は無知に対するヘッジだ」と述べました。極端な表現ですが、リーマンショックは単純な地理的分散だけでは危機を乗り切れないという現実を突きつけました。特に5~10年先の資産防衛を考える富裕層にとって、国際分散投資だけでは不十分であることが明らかになったのです。


金は本当に「有事の金」だったのか

「有事の金」という言葉の通り、金は危機時に価値を保つ資産として知られています。しかしリーマンショック直後の金価格の動きは、多くの投資家の予想を裏切りました。

2008年10月、国内金価格は2,104円まで急落し、NY金も681ドルまで下落しました。なぜでしょうか。答えは流動性危機にあります。危機の初期段階では、投資家も金融機関も現金確保を最優先とし、金を含むあらゆる資産を売却して現金化したのです。

しかしこの下落は一時的でした。2009年に入ると金価格は急速に上昇し始め、2011年には驚異的な高値を記録しました。NY金は1,900ドル台、国内金価格は4,745円に達し、リーマンショック直後の2倍以上となりました。

この劇的な価格上昇には、5つの要因が複合的に作用しました。

第一に、FRBをはじめ世界中の中央銀行が大規模金融緩和を実施し、ゼロ金利政策と大量のドル供給でドルの価値が希薄化しました。

第二に、この低金利環境が利子を生まない金の相対的魅力を高めました。

第三に、米国発の危機でドルへの信認が低下し、代替的価値保存手段として金が求められました。

第四に、中国など新興国の中央銀行が外貨準備多様化のため金を大量購入しました。

第五に、大規模金融緩和に伴うインフレ懸念が、インフレヘッジとしての金需要を刺激しました。

日本株式と金を50%ずつ組み合わせると、ポートフォリオのリスク(標準偏差)は13.1%に低下します。これは日本株単独の17.7%や金単独の15.4%より大幅に低い水準です。金は短期的変動はあるものの、中長期的には危機時の資産価値保全に有効だったのです。


危機に備える5つの実践戦略

リーマンショックの教訓から、真に危機に強いポートフォリオ戦略を構築できます。以下、5つの実践的アプローチを提示します。

1. 資産クラスを超えた真の分散

地理的分散だけでは不十分です。必要なのは資産クラスを超えた分散です。株式が下落する局面でも価値を保つ可能性のある資産を組み入れることが重要です。

高格付け国債は株式市場の下落時に資金の避難先となります。国内株式と国内債券の相関係数は-0.16と負の相関を示しています。

金については、世界最大級の資産運用会社BlackRockやWorld Gold Councilなど複数の運用機関が、ポートフォリオの5~15%の配分を推奨しています。不動産やコモディティ(原油、穀物など)も株式とは異なる要因で価格が動くため、分散効果が期待できます。

2. 現金という最強の武器

意外に思われるかもしれませんが、現金そのものも重要な資産クラスです。リーマンショックが示したのは、危機時には流動性が何よりも重要だという事実です。

ポートフォリオの10~30%を現金または現金同等物で保持することは、非効率ではありません。危機時に現金があれば、慌てて資産を売却する必要がなくなります。さらに市場が底値に近づいた時に買い増しができるという戦略的メリットもあります。

3. 機械的なリバランス

市場が大きく変動した後は、当初の資産配分比率が崩れています。この時に実施するのが「リバランス」です。株式60%・債券40%の配分が株式40%・債券60%になった場合、債券を売却して株式を買い増し、元の比率に戻します。

この行為は「高く売って安く買う」という投資の基本を機械的に実行します。リーマンショック時にリバランスを実施した投資家は、その後の回復局面で大きな利益を得ました。

市場が暴落する最中に株式を買い増すには精神的強さが必要ですが、規律を持って実行することが長期的リターン向上につながります。

4. 相関係数の動的監視

相関係数は固定的ではなく、市場環境で劇的に変化します。平常時のデータだけを見て安心してはいけません。資産配分を決定する際は、ストレステスト(極端な市場環境を想定したシミュレーション)も実施すべきです。

「もし相関係数が全て0.9以上になったら」というシナリオで自分のポートフォリオを検証してください。この思考実験が、真に危機に強いポートフォリオ構築につながります。

5. 年代別の戦略調整

年代や資産規模によって適切な戦略は異なります。以下、3つのカテゴリーに分けて考えます。

若年層・投資初心者: 長期・積立・国際分散投資が王道です。20~30年という長期で見れば、リーマンショックのような危機も回復過程の一つに過ぎません。ドルコスト平均法による積立投資を継続することで、危機時に安値で多くの口数を買い増せます。

中年層・資産形成期: 国際分散投資を基本としつつ、金などの代替資産を組み入れ始める時期です。現金比率も徐々に引き上げ、リバランスを定期的に実施します。

富裕層・退職世代: より保守的な戦略が求められます。国際分散投資に加えて、金の配分増加、現金比率の引き上げ、そして場合によってはヘッジ戦略(プットオプションなど)の活用も検討すべきです。


真の分散投資とは何か

リーマンショックから学ぶべき最大の教訓は、グローバル分散投資が万能ではないという点です。教科書的な理論は平常時には機能しますが、最も必要とされる危機の瞬間に効果は著しく低下します。

相関係数は市場環境、特に投資家の心理状態によって大きく変動します。平常時に異なる動きをしていた資産も、恐怖が市場を支配する時にはほぼ同時に下落します。

前述の学術研究(Longin & Solnik, 2001)が示すように、極端な市場下落時には国際株式市場間の相関が著しく上昇し、「恐怖の時期には相関係数が1に近づく」という現象が実証されています。

真の分散投資とは、単に資産を世界中に散らすことではありません。 それぞれの資産の特性を理解し、相関係数の動的な性質を認識し、危機時のシナリオを想定した上で、自分のリスク許容度と投資期間に合わせてポートフォリオを構築することです。

金は短期的変動はあるものの、中長期的には危機時の資産価値保全に効果を示しました。BlackRockやWorld Gold Councilなど複数の運用機関が推奨するように、ポートフォリオの5~15%を金に配分することは合理的です。

現金の保持も非効率ではなく、流動性の確保は危機時の選択肢を広げます。資産クラスを超えた分散、定期的なリバランス、そして年代に応じた戦略調整が、真に危機に強いポートフォリオを構築します。

現代ポートフォリオ理論は依然として有用な枠組みですが、その限界を認識することも重要です。理論が想定していない極端な状況が現実には発生します。システミックリスクは分散投資では完全に回避できません。だからこそ、理論と実践のバランスが求められます。

次の危機がいつ来るかは誰にもわかりません。しかし、過去から学び、準備することはできます。今日から、あなたのポートフォリオを見直してみてはいかがでしょうか。リーマンショックの教訓を活かし、真に危機に強い資産運用を実現する時です。

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