結論:日本は財政破綻しない構造を持っているが、「通貨の信認」が前提条件。
「日本は借金が多いけど破綻しない」と言われる理由、それは“円建て”で国債を発行しているからです。 外国通貨で借金している国とは違い、自国の通貨で借金していれば、理論上は返済不能になることはありません。
しかし、それが通用するのは「円が信用されている」ことが大前提。 つまり、“信認”という見えない土台の上に、今の財政運営は成り立っているのです。
では、その「信認」とは何か?どうやって保たれているのか? 今回は、「誰が国債を買っているのか?」という視点から、日本の財政の安定性についてひもといていきます。
国債は誰が買っているの?保有構成を見てみよう
日本政府が発行している国債は、実際に誰が持っているのでしょうか?
財務省が発表している2024年末時点の保有割合は次の通りです:
- 日本銀行:約51%(※2024年現在)
- 銀行・信用金庫:約15%
- 保険会社:約6%
- 年金・投資信託など:約6%
- 海外投資家:約8%
- 個人・その他:約14%
※数値は四捨五入のため合計が100%を超過・不足する場合があります。出典:財務省『国債及び借入金現在高』参考資料(保有者別内訳)、令和6年(2024年)3月末時点
このように、国債の9割以上は日本国内で保有されています。
これは非常に特殊で安定した構造です。 他国では海外投資家の比率がもっと高く、売りが売りを呼ぶリスクもある中で、日本は“自国内で借金が回っている”状態なのです。
また、長期的に見れば、これまで日本政府は利払いをしっかり続けており、債務不履行の実績はありません。 「信用の積み重ね」も、今の安定的な国債需要を支えています。
なぜ国内保有が多いと安心できるの?
銀行や保険会社、年金基金などの機関投資家は、 安定して運用できる金融商品を求めています。
日本国債は、
- 元本保証(信用リスクが低い)
- 安定した利回り(特にマイナス金利時代は貴重)
- 日銀が支える安心感
などから、「運用先として非常に優等生」とされています。
また、国債はリスクウェイトがゼロに設定されているため、 銀行などにとっては「安全資産」として保有しやすいという制度的な背景もあります。
さらに、銀行が預金者から集めたお金をどこに回すかという点でも、 「貸出先がないからとりあえず国債を買う」というケースも多く、 結果として国債市場の安定につながっています。
たとえばギリシャの財政危機では、 外国人が一斉に国債を売り逃げして金利が急騰。 政府は新規発行すら難しくなり、実質的な財政破綻に陥りました。
日本はそもそもその“構造”が違うのです。
信認ってなに?失うとどうなる?
「信認」とは、簡単に言うと
『その国の通貨や国債を安心して持てる』という市場からの信用
です。
たとえば「円は安心」「日本国債は安全」と投資家が思っているうちは、 金利は低く、国債も安定的に買われます。
でも、もし以下のようなことが起きると?
- 財政規律が大きく崩れた
- 政策運営が場当たり的で信用を失った
- インフレが進んでいるのに対応できていない
市場は「日本はもう信用できない」と判断する可能性があります。
その結果、
- 国債が売られ、金利が急上昇
- 円が売られ、為替が下落(円安)
- 輸入物価が上昇し、生活コストが急増
こうした連鎖で、経済全体が混乱するリスクがあるのです。
信認を維持するためには、数字だけでなく「政策姿勢」や「説明責任」も重要です。 国民や投資家が「政府はしっかり状況を見て運営している」と感じられるかどうか。 そこに信認がかかっています。
日銀が持っている国債って“実質無利子”?
国債保有者の中で最も大きな割合を占めているのが、日本銀行です。日銀は現在、約51%の国債を保有しており、ついに全体の過半数を占めるまでに至っています。
この国債に対して政府は利子(利払い)を行っていますが、実はこの利子は日銀の利益として国庫に納付される仕組みになっています。
つまり、政府は表面上は利子を支払っていますが、そのお金は「回り回って自分のところに戻ってくる」ことになります。
この構造により、日銀が保有する国債については、実質的には無利子と言っても過言ではありません。
このような政府と日銀の“連結的な関係”は、中央銀行と財政の距離が離れている他国とは違い、日本に特有の安定メカニズムです。
もちろん、日銀の独立性や通貨の健全性を保つため、こうした運営には丁寧な説明やガバナンスも求められます。
金利はコントロールできる?「YCC」の正体と“需給バランス”の視点
「日本は借金が多いのに金利が低いのはなぜ?」という疑問、よく耳にします。 その大きな理由が、日銀の「イールドカーブ・コントロール(YCC)」という政策にあります。
YCCとは、長期金利(たとえば10年国債)の上限をある程度決めて、 それを超えそうになったら日銀が国債を買い入れて金利を抑える仕組みです。
市場任せでは金利が大きく変動するリスクもありますが、 YCCがあることで、安定した借り入れ環境が保たれています。
もちろんこれにも限界はあります。 日銀が無制限に国債を買い入れて金利を抑え込もうとすれば、 その分だけ市場にお金を供給することになり、インフレ圧力が高まる恐れがあります。
また、市場参加者が「この金利は人工的すぎる」「実体経済に合っていない」と感じ始めると、 日銀の国債購入への信頼が揺らぎ、思わぬ副作用をもたらすこともあります。
過去には2022年〜2023年にかけて、 日本でもYCCの上限が何度か引き上げられたことで、市場が「YCCはいつか限界がくるのでは」と構え始めました。
こうした状況になると、
- 日銀の買い支えだけでは金利を抑えきれない
- 円安が加速し、輸入インフレが進む
- 政策の柔軟性が低下する
といった“信認の揺らぎ”を引き起こす可能性もあります。
つまり、YCCはあくまで「市場との協調がある前提」で効果を発揮する政策であり、 市場が「もう付き合えない」と思えば、金利の抑制効果にも限界が出てくるのです。
だからこそ、「信認」とのバランスが問われるのです。
とはいえ、デフレ傾向が続いている限りは、需要不足の状態が背景にあり、インフレ圧力は強まりにくい構造です。つまり、民間が設備投資や消費に慎重なうちは、政府が支出(国債発行)を拡大しても、それが過度なインフレや金利急騰につながりにくいのです。
これはある意味、「信認が維持されている証拠」とも言えます。 なぜなら、通貨の信認は“使われること”によって示されるものであり、 需要不足=お金が使われず溜まっている状態=通貨の価値に対する不安が小さい状態とも言えるからです。
一方で、需要が高まり、民間の投資や消費が本格的に回復していく場合には、 政府支出と民間需要が重なり合い、インフレ圧力が強くなるタイミングが来ます。
そのときにこそ、YCCのような金利政策は本当の意味で試されることになります。 つまり、「いま信認が維持されている」のは、デフレ(または低成長)という前提があるからであり、 インフレ転換期には新たな対応が必要になるかもしれないのです。
信認を失ったら、どうなる?(再確認)
信認が失われたときのリスクをもう一度整理しておきましょう。
- 国債の利回りが急上昇し、政府の利払い負担が増大
- 円安が進行し、エネルギーや食料の輸入価格が上昇
- 物価全体が上がり、国民の実質所得が減少
- 政府が金利負担に追われ、社会保障や公共投資に使えるお金が減少
このように、破綻はしなくても生活が苦しくなるという“インフレ型の危機”が起こりうるのです。
だからこそ、財政の持続性は「返せる・返せない」ではなく、 「いかに信頼されるか」「いかに暮らしを守れるか」で考える必要があります。
まとめ:信認があるからこそ、国債も発行できる
- 日本の国債は国内保有が9割以上。売り逃げリスクが低い
- 日銀が最大の保有者で、実質的な利払いは抑えられている
- 金利も政策で一定程度コントロール可能
「借金できる」は「信頼されている」の裏返し
破綻しないからこそ、信頼される財政運営を丁寧に続けること。それが今の日本に求められているのです。
第5回予告|今の日本経済はどうなってる?数字から見るリアル
財政破綻はしない。でも、生活が破綻するリスクはある。 今の日本経済について、次回は掘り下げていきます。

コメント