結論:水処理・海水淡水化関連銘柄は、深刻化する世界の水不足問題を背景に、今後も年平均8〜10%程度の成長が見込まれる有望な投資テーマです(定義により差があり、例:デサリネーション総市場は2023年162億ドル→2032年370億ドル、年平均9.6%成長と推計)。
現在、約40億人が少なくとも年1か月は深刻な水不足に直面し、安全な飲み水へ恒常的アクセスを欠く人は22億人に上ります。
このような状況下で、水処理・海水淡水化技術を持つ企業への投資は、社会課題の解決と収益性を両立できる理想的な投資機会として注目を集めています。
深刻化する世界の水不足危機
地球は「水の惑星」と呼ばれますが、現在約40億人が少なくとも年1か月は深刻な水不足に直面しており、安全な飲み水へ恒常的アクセスを欠く人は22億人に達します。
世界資源研究所(WRI)の2023年データによると、25か国が「極めて高い水ストレス」状態にあり、その状況は年々悪化しています。
特に深刻なのは中東・北アフリカ(MENA)地域で、人口約6%に対し、世界の淡水資源の1%未満しか保有せず、水ストレスが構造的に高い状況にあります。
この地域では水不足が対立や紛争の一因にもなっており、安定した水供給の確保が喫緊の課題となっています。
水不足の根本原因と将来予測
水不足を引き起こしている主な要因として、人口増加による需要拡大が挙げられます。
世界の総人口は2050年には約97億人に達すると予測されており、2050年時点で世界人口の約51%が1か月以上の深刻な水ストレスに直面する(WRI 2023年推計)見込みです。
気候変動の影響も深刻で、今世紀末までに海面水位は0.26~0.82m上昇し、降水量は地域によって差が激しくなると予測されています。これにより、一部地域では深刻な干ばつが発生する一方、他の地域では洪水リスクが高まっています。
さらに産業発展に伴う水質汚染も進行しており、河川の医薬品汚染に関する国際調査では、世界104か国・1,052地点のうち43.5%の地点で医薬品成分の濃度が安全基準を超えていることが判明しています。
日本への影響:意外な水ストレス国
日本の仮想水輸入量は2005年時点の推計で約800億m³/年と、世界最大級の仮想水輸入国です。
表面的には水資源に恵まれているように見える日本も、食糧や工業製品の輸入を通じて、間接的に大量の水を消費しています。
これは、海外の水不足が日本の経済活動にも直接的な影響を与える可能性があることを意味しています。
急成長する水処理・海水淡水化市場
水処理・海水淡水化市場は驚異的な成長を見せています。
市場定義により差はありますが、デサリネーション総市場は2023年の162億ドルから年平均9.6%で成長し、2032年には370億ドルに達すると予測されています。
より具体的には、デサリネーション技術市場は2024年の257億ドルから年平均8.68%で成長し、デサリネーション装置市場は2024年の184億ドルから2030年には317億ドルに拡大する見込みです。
全体として年平均8〜10%程度の成長が期待されています。
地域別市場動向の特徴
中東・北アフリカ地域が世界最大の市場を形成している一方で、アジア太平洋地域が急成長市場として注目されています。
特に中国では、2025年に日量290万トン規模を目標とする政策目標が示されており、圧倒的な需要の存在が確認されています。
欧州でも淡水化部門の能力が継続的に増加しており、持続可能な水管理への取り組みが活発化しています。
成長を支える要因
各国政府が水の安全保障を優先課題として位置づけており、大規模なインフラ投資が行われています。これにより、民間企業にとって安定した事業機会が創出されています。
技術革新による効率化も重要な要因で、現在の海水淡水化プラントで必要なエネルギーは概ね2.5〜4.0kWh/m³(代表値約3kWh/m³)ですが、技術革新により更なる省エネルギー化が進んでいます。
世界銀行の統計によると、2021年のエネルギー価格は前年から80%以上上昇した一方で、国際再生可能エネルギー機関の報告では、2020年に追加された再生可能エネルギーの62%が最安の化石燃料代替エネルギーよりもコストが低かったため、太陽光や風力を活用した海水淡水化プラントが増加しています。
革新的な水処理技術の最前線
RO(逆浸透)方式は世界の淡水化容量の6〜7割を占める主流技術となっています。
この技術は、従来の蒸発法と比較してエネルギー効率が高く、環境負荷も少ないため、大規模な商業利用に適しています。
海水に高圧をかけて特殊な膜を通すことで、塩分や不純物を除去し、真水を生産します。ただし、SWROの回収率は35〜50%が一般的で、真水1を得るのに海水2〜3が必要という効率面の課題もあります。
次世代技術の革新
AIやIoTの利用により、水処理の効率化や省エネルギー化、さらには事故の予防も可能になります。
具体的には、水質変化の予測、設備の故障予知、最適な運転条件の自動調整などが可能になっています。
ナノテクノロジーでは、「ナノ(1ミリの100万分の1のサイズ)」の超微細な技術を使い、従来よりも高度な水処理が可能になっています。
ナノサイズのフィルターにより、従来では除去困難だった微細な汚染物質の除去が可能になっています。
分散型処理システムへの転換も注目されており、条件により従来の集中型システムに比べて処理コストを最大40%程度削減できる可能性があります(配管距離や密集度などの前提条件に依存)。
日本の技術的優位性
日本企業の水処理技術は世界最高水準にあり、RO膜分野での世界シェアは50%を超える状況です。
技術力の高さが世界的に認められており、多くの大型プロジェクトで日本の技術が採用されています。
注目の投資対象企業分析
業界大手企業の特徴
水処理専業企業では、栗田工業、メタウォーター、オルガノが上位3社となり、それぞれの売上高は堅調に増加しており、2021年度から2022年度の伸長率は110%を超えています。
栗田工業(6370)は売上高3,446億円(2023年3月期)で業界最大手企業です。
「水処理薬品」「水処理装置」「メンテナンス・サービス」の3つを主力事業とし、海外売上比率は約50%に達しています。
オルガノ(6368)は東ソー系の水処理装置大手で、純水製造から排水処理、水のリサイクルまで幅広く手がけており、水処理エンジニアリング事業に占めるソリューション比率は45%を占めています(直近の決算資料による)。
素材・部材の有力企業
東レ(3402)は、逆浸透膜を使って海水から塩分を除去し、飲料水や工業用水を製造する海水淡水化プラントの設計から製作、販売までを行っています。
特に中東地域での実績が豊富で、サウジアラビアの複数のメガプロジェクトでROMEMBRAが採用されるなど、高い技術力を誇ります。
阿波製紙(3896)は海水淡水化に用いるRO膜用支持体で世界トップシェアを誇る企業です。
RO膜向け部材の生産増強に向けた新工場建設を発表するなど、積極的な事業拡大を進めています。
装置・ポンプメーカーの動向
酉島製作所(6363)は大型・高圧ポンプを手掛けるメーカーで、海水淡水化プラント向けについても多くの導入実績を持ちます。
2024年8月には、アラブ首長国連邦のアブダビ国営石油会社から、海水処理プラント向けに数十台規模のポンプを受注するなど、海外での受注も順調です。
荏原製作所(6361)はポンプを主力に幅広い産業機械を手掛けており、サウジアラビアの国家プロジェクトにおいて海水淡水化向け大型ポンプの納入実績を有しています。
日立造船(現:Kanadevia、7004)は、1971年に海水淡水化プラントの1号機を建設して以来、日本や中東を中心に海水淡水化プラントの建設で多くの実績を誇っています。「逆浸透膜法」「多段フラッシュ法」「多重効用法」など、多様な技術を保有しています。
専門特化企業の位置づけ
ササクラ(旧6303、2023年1月上場廃止済み)は、海水淡水化装置の専門メーカーです。
多段フラッシュ型海水淡水化装置の技術をもとに、大型から小型までの各種装置や逆浸透式の淡水化装置を手掛けていました。
東洋紡(3101)は、1970年代に世界で初めて、中空糸膜による逆浸透の原理を利用した海水淡水化装置の心臓部となるモジュール「HOLLOSEP」を開発しました。
技術開発力の高さが特徴的な企業です。
ESG投資としての魅力と社会的意義
機関投資家や金融機関等が企業に対して気候変動対策や水資源管理への取り組み開示を求める動きが活発化しており、「カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト」では水の開示プロジェクトが始まっています。
現在、ESG投資を重視する流れが世界的に広がっており、ESGを無視した経営を行う企業は今後の資金調達が困難になることが予想されます。
このため、水処理関連企業への投資は、ESG投資の観点からも非常に魅力的です。
社会課題解決への直接的貢献
水処理・海水淡水化関連銘柄への投資は、安全な飲料水の確保(22億人のアクセス不足問題の解決)、気候変動対策(エネルギー効率の高い水処理技術によるCO2削減)、水資源の持続的利用(限りある淡水資源の有効活用と再生利用の促進)に直接的に貢献します。
水は生命維持に不可欠な資源であり、景気変動の影響を受けにくい特徴があります。
このため、水処理関連企業の事業は長期的に安定した需要が見込まれ、持続可能な投資対象として優れています。
投資時の注意点とリスク管理
水処理技術は日々進歩しており、新しい技術の登場により既存技術が淘汰されるリスクがあります。
特に、海水淡水化では回収率35〜50%という効率面での課題があり、より効率的な技術の開発が求められています。
海水淡水化プラントの増加により、環境負荷(濃縮塩水の排出・海洋生態系への影響)と電力価格感応度への懸念が高まっているため、環境規制の強化により事業コストが上昇するリスクがあります。
水処理関連企業の多くが中東・アフリカ地域に依存しているため、これらの地域の政情不安や紛争が事業に影響を与える地政学的リスクも考慮する必要があります。
市場の成長に伴い、新規参入企業や異業種からの参入が増加する可能性があります。これにより価格競争が激化し、利益率が低下するリスクも存在します。
今後の展望と投資戦略
水処理市場は、持続可能な都市計画における重要性の高まりを反映して、継続的な成長が見込まれます。
2025年までにグレイウォーター処理市場だけでも300億ドルを超えると予想されています。
技術イノベーションとして、リアルタイム監視のためのIoTセンサーを備えたスマート処理システム、膜ろ過技術の進歩、植物ベースのソリューションの統合などが進展しており、新たな投資機会が創出される可能性があります。
効果的な投資アプローチ
水処理関連銘柄への投資では、技術分野(膜技術、ポンプ、制御システムなど)、地域(国内・海外)、企業規模(大手・中小)を分散することが重要です。
水インフラは長期的な投資が必要な分野であり、短期的な株価変動に惑わされず、長期保有の姿勢で投資することが成功のカギとなります。
AI・IoT、ナノテクノロジー、再生可能エネルギーとの融合など、新しい技術動向に注目し、イノベーションを取り入れる企業への投資を検討することが重要です。
投資判断においてESG要素を考慮し、社会課題解決に貢献する企業を優先的に選択することで、長期的な投資リターンの向上が期待できます。
まとめ
水不足時代の到来により、水処理・海水淡水化関連銘柄は極めて有望な投資テーマとなっています。
年平均8〜10%程度の市場成長が見込まれ、日本企業の高い技術力、ESG投資の拡大など、多くの追い風要因が存在します。
一方で、技術革新リスクや環境規制リスクなど、注意すべき点も存在します。
これらのリスクを適切に理解し、分散投資と長期保有の姿勢で投資を行うことで、社会課題の解決と投資リターンの両立が可能になるでしょう。
水は生命の源であり、人類の持続可能な発展に不可欠な資源です。水処理・海水淡水化関連銘柄への投資は、単なる収益追求を超えて、より良い世界の実現に貢献する意義深い投資機会といえます。
コメント