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投資の才能は遺伝するのか|親子3代の運用成績を追跡調査

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投資の才能は遺伝するのか

結論から申し上げます。双子研究などの行動遺伝学研究によれば、投資行動には一定の遺伝的影響が観察されますが、環境・教育・個人の選択がより大きな役割を果たす可能性が示唆されています。

そしてビジネス文献では、多くの富裕家族が世代を超えて資産を維持することに苦労しているという観察が報告されています。

この記事では、50年分の科学研究データから、投資能力と遺伝の関係について現在分かっていることを整理します。

 

あなたのリスク許容度はDNAに書かれているのか

遺伝子が投資判断に影響する可能性:小規模研究からの示唆

2009年、ノースウェスタン大学の研究チームが興味深い研究を発表しました。

投資家65人という小規模サンプルでDNA検査を行い、彼らの投資行動と比較したところ、2つの遺伝子との関連性が示唆されました。

この研究によれば、セロトニントランスポーター遺伝子(5-HTTLPR)のs/s型を持つ参加者は、l型保有者に比べてリスク資産への投資が少ない傾向にあったとされます。

また、ドーパミンD4受容体遺伝子(DRD4)の7-repeat変異を持つ参加者は、より多くリスク資産に投資する傾向が見られたとのことです。

ただし重要な注意点があります。 このような遺伝子レベルの研究は、サンプル数が非常に小さく(65人)、その後の複数の研究では一貫した結果が得られていません。

遺伝子の影響は環境や文化的背景によって大きく変動することも示されています。つまり特定の遺伝子が投資行動を「決定する」わけではなく、多くの要因の一つとして「影響する可能性がある」程度に理解すべきです。

双子研究が示す遺伝的影響の可能性

遺伝と環境の影響を分離する強力な方法が双子研究です。一卵性双生児は遺伝子を100%共有し、二卵性双生児は平均50%共有します。もし投資行動が完全に遺伝で決まるなら、一卵性双生児は常に同じ判断をするはずです。

スウェーデンで行われた双子研究(Barnea et al., 2010)では、数千組の双子の金融資産ポートフォリオを分析しました。

研究によれば、株式市場参加という行動について、一定の遺伝的要因が観察されました。ただしこの「遺伝率」は特定の集団・時期・環境における統計的推定値であり、普遍的な真理として一般化するには注意が必要です。

さらに重要な発見があります。若い時期は家族環境の影響が見られますが、成人後は個人の経験がより重要になり、家族環境の影響は低下する傾向が示されました。これは投資スキルが後天的に発達する可能性を示唆しています。

別の研究(Cronqvist & Siegel, 2014)では、損失を実現したがらない傾向、過度な取引、馴染み銘柄への偏愛など、投資バイアスについても遺伝的要因との関連が示唆されました。

しかし希望もあります。金融業界での職業経験がこれらの傾向を軽減する可能性も同時に示されたのです。


「富は3代で失われる」という格言の真実

ビジネス文献で報告される「富の世代間喪失」傾向

「富は3代で失われる」という格言が世界中の多くの文化に存在します。この傾向について、ビジネスコンサルティング分野ではRoy WilliamsとVic Preisserが富裕家族の継承に関する調査を行っています。

彼らの報告によれば、多くの富裕家族で2代目、3代目と世代が進むにつれて資産が大幅に減少する傾向が観察されました。

ただし重要な注意点があります。よく引用される「2代目で70%、3代目で90%の富が失われる」という具体的数値は、大規模な学術的追跡調査によって普遍的に確認されたものではなく、ビジネス文献における観察的な傾向として報告されているものです。

これは「すべての富裕家族に当てはまる統計的法則」というより、「多くの家族が直面する課題を示す傾向」として理解すべきでしょう。

さらに重要なのは失敗の主要因として指摘されている点です。税務や投資の失敗ではなく、以下のような要因が報告されています。

  • 相続人への事前準備の欠如 - 富を管理する能力や責任感の育成が不十分
  • 相続人の準備不足 - 金融リテラシーや価値観の伝達が不十分
  • 税務・法的問題 - 専門的な計画の不足(ただし比較的小さな要因)

つまり富の継承における課題は、市場の暴落でも税制でもなく、家族内でのコミュニケーションと教育の問題である可能性が高いのです。

ウォーレン・バフェットが子供に富を残さない理由

世界で最も成功した投資家ウォーレン・バフェットは、純資産1,600億ドル以上を持ちながら、資産の99%以上を慈善事業に寄付すると誓約しています。なぜでしょうか。

バフェット自身は決して裕福な家庭に生まれたわけではありません。父親は株式仲買人でしたが特別に裕福ではありませんでした。

しかし幼い頃から父親の仕事を通じて投資の世界に触れ、11歳で初めて株式を購入しました。この早期経験が彼の投資哲学の基礎を形成しました。

彼はこう語っています。「私は王朝的な富の支持者ではありません。世界の60億人が我々より恵まれない立場にあり、その人々が私の資金から利益を得られる選択肢があります」。

彼は大きな富を継承することが子供の自立と達成感を損なうと考えているのです。

興味深いのは彼の透明性へのこだわりです。遺言書を作成する際、必ず3人の子供たち(現在60代)に読ませ、理解させ、意見を求めています。

「子供が成人しているのに、遺言書が初めて読まれるのが親の死後だとしたら、親は恐ろしい過ちを犯しています」と彼は述べています。

世代を超えた富の相関データ

2018年のアメリカ研究(Pfeffer)は、50年以上続く家計調査データから祖父母・親・子供の3世代を分析しました。

結果、親の富のランクが10パーセンタイル上昇すると、子供の富のランクは平均で4パーセンタイル上昇することが判明しました。

さらに重要な発見があります。富の不平等が拡大しているため、同じランク差でも金額的影響が第2世代で1.6倍に増大しています。

親世代で80パーセンタイルから90パーセンタイルへの移動は約34万ドルの差でしたが、子供世代では56万ドル以上に相当します。富の世代間継承の影響は、絶対額ベースで見るとむしろ強まっているのです。


金融リテラシーの世代間伝達:親の影響力

親の投資行動が子供の市場参加に与える影響

複数の家族要因研究では、親の投資行動が子供の株式市場参加を促す可能性が示されています。連邦準備制度理事会の研究者による調査では、家族内での投資行動の「伝染」が追跡されました。

もし親または子供が最近株式市場に参入した場合、もう一方も参入する確率が高くなる傾向が観察されたのです。しかもこの効果は地理的に離れて暮らしていても観察されました。

重要なのは、この効果が株式市場への「参入」には見られましたが「撤退」には見られなかったことです。これは単純な模倣ではなく、実際に有益な情報が家族間で共有されている証拠です。

親が投資を始めて学んだ知識やノウハウを子供に伝え、それが子供の市場参加を後押ししている可能性があります。

明示的教育 vs 暗黙的観察:どちらが効果的か

親から子への金融知識伝達には2つの経路があります。明示的社会化(意図的な教育)と暗黙的社会化(行動の観察)です。

2010年のJorgensen & Savla研究では、若年成人の金融リテラシーに対する親の影響を調査しました。結果、明示的な金融教育(親子での対話)が最も強力でした。学校教育や職場経験よりも、親との直接対話が重要だったのです。

興味深いことに暗黙的観察には逆効果もあります。2024年のトルコ研究では、親の投資行動を観察することで子供の投資知識がむしろ低下するケースがあることが示されました。

特に親が金融的困難に直面している場合、子供は投資を「危険なもの」として認識し回避します。つまり単に「やっているところを見せる」だけでは不十分で、思考プロセスを言語化して伝えることが重要なのです。

社会経済的格差が生む金融能力の世代間再生産

2023年の英国研究(Jerrim et al.)は3,745組の親子を調査し、深刻な格差を明らかにしました。裕福な家庭の子供は、低所得家庭の子供に比べて金銭管理能力、金融知識、投資への自信のすべてで大幅に高いスコアを示しました。

興味深いのは学校での金融教育の効果が限定的だったことです。カリキュラムの差は子供の金融能力をほとんど説明できませんでした。

一方、家庭内での親子の金融対話の頻度と質が格差を生む主要因でした。裕福な家庭では親が日常的に子供と金銭について話し、家計判断に巻き込み、投資理由を説明していました。


育った環境が投資スタイルに与える影響

大恐慌世代が今も株を恐れる理由

人生初期の経済経験は、その後数十年にわたって投資行動に影響します。カリフォルニア大学の研究(Malmendier & Nagel, 2011)は、1960年代から2000年代までのアメリカ家計データを分析しました。

結果は明確でした。大恐慌(1929-1939年)を経験した世代は、その後の人生を通じて株式保有率が極端に低い傾向にありました

彼らは20代で市場の壊滅的崩壊を目撃し、その記憶が70代、80代になっても消えませんでした。同様の効果は他の世代にも見られました。

1970年代のインフレ期に若年期を過ごした世代は債券を好み、1980-1990年代の株式ブーム期に投資を始めた世代はリスク資産の配分が高い傾向にありました。

親の投資アドバイスは、必ずしも普遍的な真理ではなく、彼ら自身の経験というフィルターを通したものだということを理解する必要があります。

文化が投資スタイルを規定する:移民研究の証拠

スウェーデンの移民研究(Haliassos et al., 2017)は、文化の強力な影響を示しました。

第1世代移民の投資行動を出身国別に分析したところ、スウェーデンという同じ環境にいるにもかかわらず、出身国の文化に強く影響されていました。出身国の株式市場参加率が高い国からの移民は、スウェーデンでも投資する傾向が強かったのです。

別研究(Majlesi & Vischer, 2022)では、親のリスク許容度文化が子供の投資行動に与える影響を定量化しました。

もしある人が極端にリスク回避的な文化の親ではなく、リスク許容的な文化の親から生まれていたら、株式市場参加確率は大幅に高くなる可能性が示唆されました。この効果は遺伝的要因よりも強力かもしれません。

同じ遺伝子、異なる投資:双子でも選択は分かれる

一卵性双生児、つまり遺伝子を100%共有する双子でさえ、投資行動は大きく異なることがあります。Cronqvist & Siegel (2014)研究では、遺伝的に同一の双子ペアのポートフォリオを詳細比較しました。

双子は一般投資家ペアより似た行動を示しましたが、完全には一致せず、個別経験や偶発的出来事が大きな違いを生んでいました

ある双子は株式中心、もう一方は債券中心だったり、一方がアクティブ取引、もう一方がバイ・アンド・ホールドを採用したりしました。

同じDNAを持つ双子でさえ異なる道を歩むのですから、遺伝子を理由に「自分には投資の才能がない」と諦める必要はまったくありません


才能か努力か:投資における学習の可能性

なぜ投資には10,000時間ルールが適用しにくいのか

マルコム・グラッドウェルは著書『Outliers』で「10,000時間ルール」を提唱しました。バイオリン、チェス、スポーツなど、あらゆる分野で世界クラスになるには約10,000時間の意図的練習が必要だという考え方です。

しかし投資ではこの法則は機能しにくいと指摘されています。元ファンドマネージャーのJason Zweigが理由を説明しています。

音楽やスポーツと異なり、投資には即座のフィードバックが欠如しています。株式投資の判断が正しかったかどうかは数年後にしか判明せず、その間に市場環境は変化します。何が成功の原因か(スキルか運か)を特定することは極めて困難です。

さらに投資には運の要素が極めて大きいのです。10,000人のファンドマネージャーが投資を始めるとします。

1年後は5,000人が平均以上、2年後は2,500人、15年後にはたった1人が圧倒的な成績を持つことになります。この人物は「天才投資家」と称賛されますが、本当にスキルなのか、それとも15回連続でコインの表が出た幸運なのか、区別がつきません。

IQと投資パフォーマンスの関係

それでも能力がまったく関係ないわけではありません。2011年のフィンランド研究(Grinblatt et al.)は、徴兵制の知能テストデータと投資パフォーマンスを照合しました。

結果は明確でした。IQが高い投資家は株式市場に参加する確率が高く、より分散されたポートフォリオを持ち、リターンも高い傾向にありました

IQが1標準偏差(約15ポイント)高いと、年間リターンが一定程度高くなる可能性が示されました。数十年の複利効果を考えれば大きな差になり得ます。

しかし重要な発見があります。IQの効果は経験から学習する速度に表れていました。

高IQ投資家は失敗から学び、戦略を改善する能力に優れていました。つまりIQは「最初から正解を知っている」形ではなく、「試行錯誤を通じて成長する速度」という形で影響していたのです。

これは希望をもたらします。IQが平均的でも、適切な学習プロセスと十分な時間があれば投資スキルは向上します。

問題は多くの投資家が同じ間違いを繰り返し、経験から学ばないことにあります。


あなたの投資人生を変える実践的戦略

自分の遺伝的傾向を認識しシステムで補う

自分の投資行動の一部が遺伝的傾向に影響されている可能性を理解したなら、どうすればいいでしょうか。

第一のステップは自己認識です。 あなたは市場下落時に過度に不安を感じ損失を確定できないタイプでしょうか。それとも新しい「ホットな」銘柄に飛びつき過度にリスクを取るタイプでしょうか。遺伝子検査は不要です。自分の感情的反応パターンを観察するだけで十分です。

第二のステップはシステマティックなルールで補完することです。 もしあなたが損失回避的なら「ポートフォリオの5%以上を失ったら冷静に見直す」といったルールを設定します。もし過度にリスクを取るなら「新規投資は全資産の10%以内」というルールで自制します。感情的判断を完全排除はできませんが、事前に決めたルールで最悪の判断を避けられます。

第三のステップは体系的アプローチを検討することです。 ウォーレン・バフェット自身が自分の家族のために「S&P500インデックスファンドに90%、短期国債に10%を投資せよ」と遺言で指示しています。

世界で最も成功した投資家が個別株選択ではなくインデックス投資を推奨しているのです。これは才能に依存しない投資手法の力を物語っています。

子供への金融教育:5つの実践的原則

もしあなたが親なら、子供に投資能力を授けることは金銭以上に価値ある遺産となります。研究から得られた実践的アドバイスをまとめます。

  1. 早期から対話を始める - 金銭の話題をタブーにしません。幼稚園児でも「お金は何のため」という基本概念を理解できます。小学生にはお小遣い管理、貯蓄、複利を教えます。中高生には株式市場の仕組み、リスクとリターン、分散投資を説明します。
  2. 明示的教育を重視する - 単に投資している姿を見せるだけでは不十分です。なぜその投資判断をしたのか、何を考慮したのか、どんなリスクがあるのかを言語化して説明します。家計判断に子供を巻き込み意見を求めます。
  3. 失敗を共有する - 成功談だけでなく失敗談も正直に話します。「私はこの投資で損をしました。なぜなら〜を考慮しなかったからです」という話は教科書のどんな教訓より印象に残ります。
  4. 段階的に責任を委譲する - 高校生や大学生になったら小額の資金(例えば1万円)を与え実際に投資させます。最初は必ず間違えます。しかしその間違いが10万円ではなく1万円で済むなら安い授業料です。
  5. 価値観を伝える - 最も重要なのはテクニックではなく価値観です。富は何のためにあるのか。社会への責任とは何か。家族の伝統や使命は何か。これらの対話を通じて子供は単なる金融スキル以上のものを学びます。

富の世代間継承を成功させる多世代戦略

もしあなたが相当な富を築いているなら、多世代の視点で考える必要があります。多くの富裕家族が直面する資産喪失の傾向を打ち破るには何が必要でしょうか

  • 透明性とコミュニケーション - バフェットの教訓を思い出しましょう。相続人が成人しているなら遺言書や相続計画を事前に共有し意見を聞きます。驚きや誤解が家族の絆を壊します。
  • 相続人の準備 - 富を継承する前に、相続人がその責任を担えるよう準備させます。金融教育はもちろん、家族ビジネスやミッションの理解、意思決定プロセスへの参加が重要です。
  • 専門家チームの構築 - 税理士、弁護士、ファイナンシャルアドバイザー、家族カウンセラーを含むチームを組織します。富の継承は単なる金融問題ではなく、家族の絆、価値観、コミュニケーションの問題でもあります。

結論:遺伝子は出発点、到達点は自分で決める

本記事の冒頭で提示した問いに戻りましょう。投資の才能は遺伝するのでしょうか。

答えは複雑ですが明確です。双子研究などでは、投資行動の一部に遺伝的要因が観察されますが、より大きな部分は環境、経験、教育、そして自分自身の選択によって決まると考えられています

5-HTTLPRやDRD4といった遺伝子がリスク許容度に影響する可能性が示唆されていますが、サンプル数が非常に小さく再現性も限定的であり、その影響は絶対的ではなく環境との相互作用の中でのみ意味を持ちます。

親から子へ、子から孫へと富を継承する試みの多くが苦戦しています。「2代目で70%、3代目で90%の富が失われる」という格言的な傾向は、遺伝的才能の限界ではなく準備とコミュニケーションの欠如という全く別の問題を反映している可能性があります。

ウォーレン・バフェットのような伝説的投資家でさえ、子供に大きな富を継承させることの危険性を認識しています。彼が強調するのは透明性、対話、そして何より富は責任であるという価値観です。

金融リテラシーは世代間で伝達されますが、それは遺伝子を通じてではなく、家庭内での対話、親の行動観察、直接的教育を通じて伝達されます。

裕福な家庭の子供が高い金融能力を持つのは優れた遺伝子を持つからではなく、日常的に金銭について話し合う環境にいるからです。

10,000時間ルールは投資には適用困難だと指摘されていますが、だからといって学習と経験が無意味というわけではありません。

適切なフィードバック、メンターシップ、意図的な振り返りを通じて投資判断は確実に改善します。才能がすべてではなく、システマティックなアプローチと規律がより重要です。

最後に最も重要なメッセージを繰り返します。遺伝子は運命ではありません。

あなたがどんな遺伝的傾向を持って生まれようとも、投資の成功を決めるのは学習への意欲、自己認識、規律、そして賢明な選択です。

同じDNAを持つ双子でさえ異なる投資スタイルを持ちます。ならばあなたも自分の投資人生を選択できます。

遺伝子は出発点を与えますが、到達点は自分で決めます。

この真理を理解し適切な戦略と教育で武装するなら、あなたと次世代は多くの富裕家族が直面する資産継承の課題を乗り越え、真に持続可能な富と金融知識を継承できるでしょう。

子どもたちへ投資
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