結論:データは悪くない。でも体感は苦しい。
「なんとなく生活が苦しい」「景気がいいって本当?」という声、よく耳にします。 でも実際に統計データを見てみると、部分的には改善している指標もあるのが事実。
つまり今の日本経済は、“体感”と“数字”のズレが非常に大きいんです。 そのギャップの理由を、実際のデータをもとに読み解いていきます。
1. 実質賃金:名目は上昇、でも「生活は苦しい」
名目賃金(額面)は少しずつ上昇していますが、それを上回るペースで消費者物価指数(CPI)が上昇しているため、実質賃金は2023年から14ヶ月以上連続でマイナスという状況が続いています。
- 例:2023年の平均名目賃金は上昇 → でも物価がそれ以上に上がる
- その結果、家計の「購買力」は低下
→生活の実感が「苦しい」のはこのギャップのせいです。
さらに注目すべきは、可処分所得の減少です。
税や社会保険料の負担が重く、手取りが目減りしているという構造的な問題も背景にあります。また、年金生活者にとっても、物価上昇が購買力を削り「節約の限界」に達しているケースも少なくありません。
2. 消費:控えられる支出、戻らない消費マインド
個人消費(GDPの6割を占める)は、コロナ禍の急落からは回復傾向にあります。 が、水準としてはコロナ前をやっと回復するかしないかという程度。
- 高価格の商品やレジャーは“後回し”になる傾向
- 食品や光熱費の支出が増え、その他の出費が削られる
- 若年層を中心に「未来不安」が強く、支出をためらう傾向も
→「買えるけど、買わない」行動が経済全体を抑制しています。
特に「心理的な冷え込み」が深刻で、物価高が続く中で「先の見通しが立たない」ことが消費マインドを抑えています。
3. 設備投資と企業動向:内部留保は過去最高、でも中小は慎重
日本企業全体としては、利益が過去最高、内部留保も増加中です。 しかしその裏で、実際に「投資」へとつながっているかというと、答えは一部イエス、一部ノー。
- 大企業や輸出企業 → 設備・人材に積極投資
- 中小企業や内需産業 → 原材料高・人件費で投資を控える傾向
→設備投資は経済の先行指標。地域格差・企業規模格差が鮮明に。
「人手不足で仕事を増やせない」「設備投資の回収が見通せない」という声も多く、投資の二極化が深まっています。
また、エネルギー価格の高騰や物流コストの上昇も企業行動に影響を与えており、「守りの経営」に拍車をかけています。
4. 税収:過去最高の70兆円超、でも生活に反映されない?
2023年度の国の税収は70兆円を超え、戦後最高水準に達しました。
- 消費税:物価上昇により自動的に税収増
- 法人税:企業利益の拡大で増収
しかし、その恩恵が国民生活に還元されているか?というと、答えは微妙。
- 社会保障給付や公共サービスに反映されていない実感
- 税と分配がリンクしていないことへの不信感
- 教育・子育て支援や地方再生など、実需につながる使い道が少ない
→税収=生活の豊かさではなく、「財政運営の使い方」が問われています。
5. 格差と体感:数字の平均と実感の差
たとえばGDPが増えていても、それが全員の生活向上を意味するわけではありません。
- 賃金の中央値はほとんど上がっていない
- 非正規雇用の比率が高止まり
- 地方経済は人手不足と需要不足の両方に直面
→「平均」ではなく「中央値」「分布」で見たときに、日本経済の実情が浮かび上がります。
都市部と地方、若者と高齢者、正社員と非正規など、経済の恩恵が偏っていることが、体感のズレを生んでいます。
まとめ:「成長してるのに苦しい国」の正体
- データ上は改善傾向でも、実際の体感は乏しい
- その原因は、実質賃金の低迷、税と分配のギャップ、構造的な格差
- 「数字で好景気」はあっても、「実感としての豊かさ」が欠けている
👉 いま必要なのは、「統計の見栄え」ではなく「暮らしの再構築」。数字と実感をつなぐ政策が問われています。
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