結論:5年後の投資戦略予測
投資初心者からベテランまで悩む永遠のテーマ。全世界株式(オルカン)とS&P500、どちらを選ぶべきなのか。
バリュエーションや人口動態を考慮すると、2025年から2030年の5年間では、全世界株式(オルカン)がやや優位なシナリオが想定されやすいと考えられます。
専門機関の予想年率リターンは、オルカン7.2%に対してS&P500が6.8%程度(フィデリティ社予想)。その差は0.4%程度ですが、5年間では約2%の累積差となる計算です。
ただし、これらは参考値であり、実際の結果は経済情勢や地政学的変化によって大きく左右されます。
米国株が再度アウトパフォームするシナリオも十分に考えられるため、どちらが「勝つ」かは不確実性が高いというのが現実です。
過去20年のパフォーマンスが示す真実
過去20年間のデータを詳しく分析すると、興味深い事実が浮かび上がります。2004年から2024年までの年率リターンは、全世界株式(MSCI ACWI)が8.1%、S&P500が9.8%でした。
一見するとS&P500の圧勝に見えますが、期間の切り取り方によって結果は大きく変わります。
2000年から2010年の期間では、オルカンがS&P500を年率2.1%上回りました。
ITバブル崩壊とリーマンショックという2つの大きな危機において、地域分散効果が如実に現れたのです。
米国市場が低迷する中、新興国市場の台頭が全世界株式のパフォーマンスを支えました。特に中国は年率15%超、インドは年率12%の成長を記録し、地域分散の威力を証明しました。
一方、2010年から2020年は米国の黄金時代でした。量的緩和政策とGAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)の爆発的成長により、S&P500がオルカンを年率2.8%上回りました。
Appleの時価総額は2010年の2,000億ドルから2020年には2兆ドルへと10倍に成長し、米国市場の異常とも言える好調さを象徴していました。
2020年から2024年にかけては、両者のパフォーマンス差が縮小しています。
米国の超低金利政策が終了し、他地域との金利差が縮小したことで、資金の米国一極集中に変化の兆しが見られます。
バリュエーションから見る投資機会の格差
現在の各地域の株価水準を比較すると、明確な投資機会の違いが見えてきます。
2024年12月時点で、米国のPER(株価収益率)は21.5倍、欧州は13.2倍、新興国は12.8倍、日本は15.1倍となっています。
米国株式は他地域と比べて明らかに割高な水準にあります。これは過去10年間の好調なパフォーマンスが株価に織り込まれているためですが、将来のリターンを押し下げる要因ともなり得ます。
投資の基本は「安く買って高く売る」ことですが、現在の米国株式は「高く買う」状況にあると言えるでしょう。
S&P500の構成を詳しく見ると、IT関連セクターが40%超を占めており、これは明らかな集中リスクです。
上位5社(Apple、Microsoft、Amazon、NVIDIA、Google)だけで全体の23.4%を占めており、これらの企業の動向がS&P500全体のパフォーマンスを大きく左右します。
一方、オルカンのセクター構成は、IT18%、金融15%、ヘルスケア12%、一般消費財11%、資本財10%と、バランスの取れた分散が実現されています。
特定セクターの変動リスクを軽減し、より安定したリターンを期待できる構造となっています。
為替リスクという見えない要因
過去10年間、円安傾向が続いたことで、ドル建て資産である米国株式の円換算リターンは大幅に押し上げられました。
2012年の80円台から2024年の150円台まで、約90%の円安が進行したのです。
しかし、この円安トレンドが永続的に続くと考えるのは危険です。購買力平価理論による長期均衡レートは105-110円とされており、現在の150円水準は約30%の円安過大評価状態にあります。
為替は数十年単位で乖離することもありますが、長期的には円高方向に収束しやすい傾向があるため、今後5年間での為替変動リスクは考慮すべき要素です。
オルカンの通貨構成を見ると、米ドル60%、ユーロ15%、日本円8%、英ポンド4%、その他13%と、自然な通貨分散が実現されています。
これにより、特定通貨の変動リスクが軽減され、過去10年間の為替変動による年率影響は±1.2%程度に抑えられています。
為替ヘッジをかけずとも一定の安定性を確保できているのです。
人口動態が描く経済成長の未来図
人口動態は長期投資において極めて重要な要素です。
労働人口の増減は直接的に経済成長率に影響し、株式市場のパフォーマンスにも大きく関わってきます。2025年から2030年の労働人口変化率を見ると、興味深いパターンが浮かび上がります。
米国は移民効果により年率0.3%の増加を維持する一方、欧州は少子高齢化により年率0.2%の減少、中国は一人っ子政策の影響が本格化し年率0.5%の減少が予測されています。
対照的に、インドは人口ボーナス期で年率1.1%、ASEAN諸国も年率0.8%の労働人口増加が見込まれています。
特に注目すべきは、アジア地域の中間層人口の爆発的拡大です。
2025年の20億人から2030年には26億人へと30%増加し、これらの中間層による消費支出は年率6.2%の拡大が予測されています。
これらの消費の多くが「初回消費」であることも重要なポイントです。先進国の消費が買い替え需要中心であるのに対し、新興国では自動車、家電、住宅などの初回購入が中心となるため、成長のポテンシャルが格段に大きいのです。
専門機関が予測する2025-2030年の投資環境
IMF(国際通貨基金)の最新予測によると、2025年から2030年の平均GDP成長率は、米国2.1%、ユーロ圏1.4%、中国4.2%、インド6.5%、世界全体3.1%となっています。
米国の成長率は先進国の中では高いものの、新興国の成長ポテンシャルには及ばないのが現実です。
世界最大級の資産運用会社による長期リターン予想も、オルカン有利の見解を支持しています。
バンガード社はS&P500の10年間リターンを6-8%、国際株式を7-9%と予想し、ブラックロック社は米国株式5-7%、グローバル株式6-8%、フィデリティ社はS&P500を6.5%、全世界株式を7.2%と予想しています。
興味深いことに、どの運用会社も米国以外の株式により高いリターンを予想しています。これは現在の米国株式の割高感と、新興国の成長ポテンシャルを反映したものと考えられます。
また、近年拡大しているESG(環境・社会・ガバナンス)投資の影響も無視できません。
欧州企業は従来からESGへの取り組みが進んでおり、中国も国家戦略として環境技術に巨額投資を行っています。
一方、米国企業の中にはESG投資に懐疑的な姿勢を見せる企業も存在し、長期的にはESG重視の流れが米国株式にはややマイナスに働く可能性があります。
投資戦略:あなたはどちらを選ぶべきか
多くの投資家にとって最も現実的で効果的な選択は、実は両方に投資することです。
例えば、オルカン60%とS&P500 40%、またはS&P500 50%とオルカン50%といった組み合わせにより、米国の成長力と世界全体の分散効果の両方を享受できます。
投資期間による戦略も重要な考慮要素です。
5年以内の中期投資では、経済サイクルや地政学的変化の影響を受けやすいため、分散投資であるオルカンが有利です。特定地域の一時的な変動リスクを軽減できるからです。
一方、10年以上の長期投資では、企業の成長力が最も重要な要素となります。米国企業の技術革新力は確かに高いものの、人口動態や労働力の観点では新興国により大きなポテンシャルがあります。
年代別のモデルポートフォリオ例を考えると、20-30代の積極成長期にはオルカン70%とS&P500 30%で長期間での分散効果を享受しつつ米国の成長力も取り込む。
40-50代の安定成長期にはオルカン80%とS&P500 20%でリスク軽減を重視しつつ適度な成長を狙う。
60代以上の資産保全期にはオルカン90%とS&P500 10%で地域分散によるリスク軽減を重視するという考え方があります。
ただし、これらは一つの参考例であり、個人のリスク許容度や投資目標によって大きく調整すべき内容です。
まとめ:長期投資成功の本質
データ分析と専門家予測を総合すると、2025年から2030年の5年間では全世界株式(オルカン)がやや優位なシナリオが想定されやすいと考えられます。
その背景には、米国以外の地域の割安感、新興国の人口ボーナス効果、分散効果によるリスク軽減、そして為替リスク分散があります。
ただし、米国株が再度優位に立つシナリオも十分に考えられ、予測の不確実性は高いというのが現実です。
しかし、投資において最も重要なのは「勝ち負け」ではありません。
自分の投資目標とリスク許容度に合った選択をすることこそが成功の秘訣です。
S&P500はシンプルさ、流動性、長期的な成長実績で優れており、オルカンは分散効果、為替分散、新興国成長の取り込みで優れています。
投資に「絶対的な正解」は存在しません。
重要なのは、十分な情報に基づいて自分なりの判断を下し、長期間にわたって継続することです。
比率は個人のリスク許容度や投資期間に応じて調整すれば良く、5年後、10年後に振り返った時、どちらを選んだとしても、継続して投資を続けた自分を誇れるはずです。
最終的に、多くの投資家にとって最適解は、オルカンとS&P500の組み合わせによる投資です。これにより、世界経済全体の成長を享受しながら、地域集中リスクを適切に管理することができるのです。
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