あの人と同じ投資”をやめて分かったこと ―エナフン流成長株投資、挑戦と撤退の記録

あの人と同じ投資"をやめて分かったこと ―エナフン流成長株投資、挑戦と撤退の記録
目次

1. なぜ”あの人と同じ投資”をしたくなったのか

個人投資家ブロガー・エナフンさんを知ったのは、2011年頃のことだった。当時の私は、投資というものに興味を持ち始めたばかりで、何をどう考えればいいのかも分からず、とにかく成功している人の真似をすることから始めようと思っていた。

エナフンさんのブログ「エナフンさんの梨の木」を初めて読んだとき、衝撃を受けた。2008年に100万円でスタートした投資口座が、わずか数年で何倍にもなっている。しかも、すべての取引をブログで公開している。金融関係者でもなく、”普通の会社員”が、ピーター・リンチ流の成長株投資でこれだけのリターンを上げている。

ブログには、企業分析の過程、投資判断の理由、保有銘柄のストーリーが丁寧に綴られていた。そこには、「こうすれば勝てる」という明確な方法論があった。会社四季報を丹念に読み込み、割安な成長株を見つけ、3〜5年で2〜3倍になることを狙う。バイ&ホールドで持ち続ける。シンプルで、再現性がありそうに見えた。

「こんな投資家になりたい」。心からそう思った。エナフンさんのように、企業の本質的価値を見抜き、市場が気づく前に仕込む。そして数年後、株価が何倍にもなるのを見届ける。それは、私が最初に描いた「理想の投資家像」だった。

当時の私には、インデックス投資という選択肢は頭になかった。そもそも投資信託やETFについての知識もほとんどなかった。投資と言えば個別株、それも成長株を見つけて大きなリターンを狙うもの。エナフンさんのブログは、そんな私にとって完璧な教科書に思えた。

2. 日本の成長株投資という選択

エナフン流投資の核心は、「割安成長株へのバリューエンジニアリング(VE)投資」だった。企業の本質的価値を計算し、それに対して株価が割安であれば買う。そして成長ストーリーが続く限り保有し続ける。

これが、私の投資人生の出発点となった。

エナフンさんが扱う銘柄は、時価総額が小さめの企業が多かった。誰も注目していないような地方の優良企業、ニッチな分野でトップシェアを持つ企業。そういう企業を、会社四季報や決算短信から掘り起こしていく作業は、まるで宝探しのようだった。

「日本にも成長する企業はたくさんある」。当時の私は、そう信じて疑わなかった。大企業や有名企業でなくても、着実に成長している中小企業は存在する。その中から未来の大化け株を見つけ出すことができれば、大きなリターンを得られる。

私は、会社四季報を購入した。分厚い本を手にしたときの高揚感を、今でも覚えている。そして、エナフンさんのブログで紹介されていた銘柄選定の基準を参考に、自分なりのスクリーニングを始めた。ROE、営業利益率、売上成長率。それらの数字を追いかけながら、「これは」と思う企業を見つけたときの興奮は格別だった。

規模の小さい銘柄を扱うスタイルへの憧れもあった。大型株は機関投資家が注目しているため、個人投資家が優位性を持ちにくい。しかし小型株なら、丁寧に調べれば市場より先に価値を見出せる可能性がある。エナフンさんはそう教えてくれた。

これが、私が最初に選んだ投資の形だった。後から知ることになる米国ETFやインデックスファンドとは、まったく別の世界。個別企業の成長に賭ける、知的でスリリングな投資スタイルだった。

3. 実際にやってみて得られたもの

結論から言えば、利益は出ていた。エナフン流を真似た投資で、私も確かにリターンを得ることができた。もちろんエナフンさんのような驚異的な成果ではないが、年率で10〜15%程度のリターンは安定して出ていた。投資を始めたばかりの自分にとって、これは大きな自信になった。

しかし、それ以上に価値があったのは、「企業を見る目」が養われたことだ。決算短信を読むスピードが上がった。営業利益率やROEの意味が、感覚として理解できるようになった。PERやPBRといった指標が、ただの数字ではなく、企業の状態を映す鏡として見えるようになった。

会社四季報を毎号読破する習慣も身についた。春号、夏号、秋号、冬号。年4回、約3700社の企業情報が更新される。その全てに目を通すことで、業界の動向、企業間の力関係、成長の芽が見えてくる。この習慣は、投資スキル以上に、ビジネスパーソンとしての視野を広げてくれた。

また、投資ストーリーを言語化する習慣も得られた。エナフンさんのブログを真似て、自分も投資日記をつけるようになった。「なぜこの株を買ったのか」「どういう成長ストーリーを描いているのか」「いつ売却するのか」。それらを文章にすることで、自分の投資判断が明確になり、感情に流されにくくなった。

「目利き力」が鍛えられた。この感覚は確かにあった。決算発表を見て、「この数字なら株価はまだ上がる」「ここが成長の限界点かもしれない」といった判断が、以前よりも速く、正確にできるようになっていた。

企業の決算資料を読み込む力、財務諸表を理解する力、業界構造を把握する力。これらのスキルは、今でも役立っている。投資の世界に足を踏み入れた当初に、エナフン流という「本格派」の投資スタイルに触れられたことは、幸運だったと思う。

4. それでも感じ始めた違和感

しかし、成果が出ていたにもかかわらず、次第に違和感を覚えるようになった。

最初に気づいたのは、「株価の上下に一喜一憂してしまう」自分の姿だった。朝起きて、まずスマホで株価をチェックする。昼休みにも株価を見る。夜、家に帰ってからも株価を確認する。四半期決算の発表日には、ソワソワして仕事が手につかない。

エナフンさんは「バイ&ホールドで長期保有」を推奨していた。しかし、実際にポジションを持ってみると、株価の変動が気になって仕方がない。特に小型株は値動きが激しい。一日で5%、10%動くことも珍しくない。それを「気にするな」と言われても、無理だった。

ポジションを持つこと自体がストレスになっていた。保有銘柄が上がれば嬉しいが、下がれば不安になる。「この下落は一時的なものか、それとも成長ストーリーが崩れたサインか」。そんな判断を、毎日迫られる。

投資が「生活に入り込みすぎている」と気づいた瞬間があった。家族との食事中も、頭の片隅で株価のことを考えている。子どもと遊んでいるときも、決算発表のスケジュールが気になる。休日も、会社四季報や決算資料を読むことに時間を費やしている。

これは、本当に自分がやりたかったことなのか? 投資は、人生を豊かにするための手段のはずだった。それなのに、投資そのものが目的化し、日常を侵食している。

5. 「これは自分には合わない」と思った理由

やがて、「これは自分には合わない」と確信するようになった。

一番の理由は、投資スタイルと性格のミスマッチだった。エナフンさんは、「”普通の会社員”でも勝てる」と言っていた。しかし、エナフンさんが成功したのは、彼が「普通の会社員」だからではなく、彼が「企業分析に情熱を注げる人」だったからだ。

私には、その情熱が続かなかった。会社四季報を読むのは面白いが、それを年4回、何年も続けるのは苦痛だった。決算短信を読み込むのは勉強になるが、毎四半期、何十社もチェックするのは負担だった。

集中型・裁量型投資の精神的コストが、想像以上に大きかった。常に監視し、判断し続けなければならない。「この銘柄は保有し続けていいのか」「売却すべきタイミングではないか」。その判断の連続が、疲れた。

成果よりも”消耗”の方が大きくなっていた。確かに利益は出ていた。しかし、その利益を得るために費やした時間、精神的エネルギー、家族との時間を考えると、割に合わない気がした。

また、小型株特有のリスクも見えてきた。流動性が低いため、売りたいときにすぐ売れないことがある。企業規模が小さいため、不祥事や業績悪化のインパクトが大きい。そういったリスクを抱え続けることが、次第に重荷になっていった。

ちょうどその頃、投資関連の情報を集める中で、インデックス投資や米国ETFという存在を知った。「市場平均に投資する」「分散された投資信託を積み立てる」。最初は退屈に思えたが、調べれば調べるほど、その合理性に惹かれていった。

6. エナフン流をやめて、インデックス投資へ切り替えた

エナフン流投資から離れる決断は、徐々に訪れた。そして、それまでほぼやっていなかったインデックス投資・ETF投資へと、明確に切り替えることにした。

「戻った」のではない。それまで私がやっていたのは、ほぼエナフン流の個別株投資だけだった。インデックスファンドも米国ETFも、名前は知っていたが本格的に取り組んだことはなかった。つまり、これは「回帰」ではなく、「転換」だった。

きっかけは、投資ブログや書籍を読む中で、インデックス投資の合理性に触れたことだった。「長期的には市場平均を上回る投資家は少ない」「コストの低いインデックスファンドが最も効率的」。最初は半信半疑だったが、調べれば調べるほど、その論理性に納得していった。

そして、自分の疲弊した状態と照らし合わせて考えた。エナフン流投資で成果は出ている。しかし、この精神的負担を何十年も続けられるのか? 答えは明らかだった。

私は、保有していた個別株を順次売却し、VYMという米国高配当ETFを初めて購入した。次に、楽天VTIやeMAXIS Slim米国株式といったインデックスファンドの積立を開始した。これまでやったことのない投資スタイルへの、大きな方向転換だった。

この切り替えとともに、投資に対する感情の振れ幅が劇的に減った。株価を毎日チェックする必要がなくなった。四半期決算に一喜一憂することもなくなった。投資が、再び「生活の一部」ではなく「背景」になった。

判断も圧倒的に楽になった。毎月、決まった金額をインデックスファンドに積み立てる。楽天VTI、eMAXIS Slim米国株式。設定さえしておけば、自動的に買い付けられる。銘柄選定に悩むこともなく、タイミングを計る必要もない。淡々と、機械的に、積み立てていくだけ。

そこにプラスアルファとして、VYMやHDVといった高配当ETFを少し保有する。配当収入という「見える成果」が欲しかったのと、完全に個別企業を見る目を手放したくなかったからだ。でも、あくまで中心はインデックス投資の積立。高配当ETFは、ポートフォリオのアクセント程度の位置づけだった。

「勝ち方」より「続け方」を重視するようになった。エナフン流投資は、確かに大きなリターンを狙える。しかし、それを何十年も続けられるか? 老後まで、四季報を読み続けられるか? 答えは「No」だった。

一方、インデックス投資中心のスタイルなら続けられる。70歳になっても、80歳になっても、ただ積立設定を維持し続ければいい。投資判断のストレスから解放され、人生の他の部分に時間とエネルギーを使える。それが、私にとっての最適解だった。

これは「王道への回帰」ではなく、「新しい道への転換」だった。エナフン流から始まり、試行錯誤の末に、ようやく自分に合った投資スタイルを見つけた。それがインデックス投資中心のポートフォリオだった。

7. それでも、あの経験は無駄ではなかった

エナフン流投資をやめた今でも、あの経験は無駄ではなかったと思っている。

今の投資判断には、確実にあの時の視点が生きている。例えば、高配当ETFのVYMを買うとき、その構成銘柄を見る目がある。P&G、ジョンソン・エンド・ジョンソン、JPモルガン。これらの企業がなぜ安定配当を出し続けられるのか、財務指標から理解できる。

インデックスファンドを買うときも、「ただ市場平均に乗っている」だけではなく、その背景にある企業群の成長を意識できる。S&P500の中で、どの業種が伸びているのか、どの企業が牽引しているのか。そういった感覚は、個別株投資の経験がなければ得られなかった。

企業を見る解像度は、確実に上がった。会社四季報を読み込んだ経験は、今でもニュースや経済記事を読むときに役立っている。「この企業の営業利益率は高いのか低いのか」「このROEは優秀なのか」。そういった判断が、瞬時にできる。

一度”振り切った”からこそ、自分の適性が見えた。もし、最初から「インデックス投資が正解」と教えられていたら、「個別株投資をやってみたい」という憧れがずっと残っていたかもしれない。実際にやってみて、自分に合わないと分かったから、今は迷いなくインデックス投資を続けられる。

投資の世界に入った最初の一歩が、エナフン流という本格派のスタイルだったことは、幸運だったと思う。基礎からしっかり学べた。企業分析の本質を知ることができた。そして、自分の限界も知った。

8. 今でもなつかしく思う、あの頃の投資

時々、過去の削除したブログを読み返すことがある。そこには、エナフン流投資に挑戦していた頃の記録が残っている。会社四季報から見つけた銘柄、投資ストーリー、決算発表後の興奮。

懐かしい。あの頃は、投資に対する情熱があった。毎日、株価をチェックするのが楽しかった。決算発表が待ち遠しかった。新しい銘柄を発掘することに、知的な刺激を感じていた。

今の投資スタイルは、確かに効率的で、ストレスが少ない。しかし、あの頃のようなワクワク感はない。淡々と、機械的に、積み立てていくだけ。それはそれで良いのだが、時々、あのスリリングな日々が恋しくなる。

あの投資に挑戦していなければ、今の自分はいない。エナフン流投資を経験したからこそ、インデックス投資の価値が分かった。個別株の難しさを知ったからこそ、ETFの便利さが身に染みた。企業分析の大変さを経験したからこそ、市場平均に乗ることの賢さが理解できた。

「真似したからこそ、自分の軸が見えた」。これが、エナフン流投資から学んだ最大の教訓だった。

2011年、投資の世界に足を踏み入れた私が最初に出会ったのが、エナフンさんのブログだった。もし別の情報に出会っていたら、私の投資人生は全く違ったものになっていただろう。その意味で、エナフンさんとの出会いは、私の投資家としての原点だった。

9. “あの人と同じ投資”をやめて分かったこと

投資は、再現ではなく、最適化だった。

エナフンさんの投資法は素晴らしい。実際に成果を上げている。しかし、それが自分にも合うとは限らない。投資スタイルは、その人の性格、ライフスタイル、価値観と密接に結びついている。同じ手法でも、ある人には最高で、別の人には最悪ということがある。

憧れは入口であって、ゴールではない。エナフンさんへの憧れがあったからこそ、私は投資の世界に深く入り込めた。しかし、憧れだけでは続かない。最終的には、自分に合ったスタイルを見つけなければならない。

自分に合う投資は、自分でしか決められない。他人の成功事例は参考になるが、それをそのまま真似しても、同じ結果は得られない。試行錯誤し、失敗し、学び、自分なりの答えを見つける。それが、投資の本質だった。

今の私は、楽天VTIやeMAXIS Slimといったインデックスファンドを中心に、プラスアルファでVYMやHDVといった米国高配当ETF、そしていくらかの日本株を保有している。エナフン流からは離れたが、企業を見る目は失っていない。必要なときには四季報を開くし、決算短信も読む。ただ、それが投資判断の中心ではなくなった。

これが、私にとっての最適解だ。エナフン流投資を経験したからこそ、辿り着けた答えだ。

あの日、2011年、エナフンさんのブログに出会い、「こんな投資家になりたい」と思った自分に、今ならこう言ってあげたい。

「その憧れは大切にしていい。その情熱で、たくさんのことを学べる。でも、いつか君は自分の道を見つける。それは、エナフンさんとは違う道かもしれない。でも、それでいいんだよ」と。

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